小倉簡易裁判所 昭和44年(ハ)330号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告が昭和二〇年一月に被告の先代訴外古田直三郎から、別紙第一目録掲記の建物を賃借し、居住していたこと、および右建物は昭和二一年五月五日隣家の佐伯梅吉方から出火した火災により類焼して滅失したこと、右古田直三郎は昭和二一年四月八日に死亡したことならびに原告が現に、別紙第二目録掲記の建物に居住していること別紙第一目録掲記の建物につき、昭和三五年五月四日福岡法務局戸畑出張所受付第一四七三号をもつて、訴外古田直三郎の家督相続人である被告名義に保存登記がなされていることは、いづれも当事者間に争いがない。
判断(一)(別紙第一目録掲記の建物の所有権の帰属について)
<証拠>を綜合すれば、前顕火災により別紙第一目録掲記の建物の二階は殆んど焼けたが一階は、三帖一間だけが焼け残つたので、被告方の家人の依頼によつて、訴外谷岡道広、同奥田秀雄は、焼け焦げた立つたままの柱を削り、土台も、座も、木組も、元のままにして焼残りの板等で囲い、且つ屋根は古トタンで葺いて、一応、住める程度のバラック建家屋に修復し、その家屋に原告が家族とともに引続き賃借居住していたが、昭和三三年頃に至つて原告は、右バラック建家屋を取壊しその跡地に、建築に要する資材等を自らの費用で買入れて工事費も自らの負担ですべて支出し、別紙第二目録掲記の建物を新築したことが認められ、他に右認定の妨げとなる証拠はない。
以上認定した事実によれば、別紙第二目録掲記の建物の所有権は原告にあることは明らかでなお、被告は原告の別紙第二目録掲記の建物の所有権を否認し、抗争していることは弁論の全趣旨により認められるところで、原告が別紙第二目録掲記の建物の所有権の確認を求める利益があり、その点に関する原告の主張は理由がある。
判断(二)(原告の別紙第一目録掲記の建物の滅失登記手続請求権について)
前顕当事者間に争のない事実上滅失している別紙第一目録掲記家屋の保存登記の存在は、その跡地に原告が建築した前顕別紙第二目録掲記の家屋の保存登記申請に際し同一土地に重複した登記申請の疑あるものとして、不動産登記法第四九条第二号により登記所において受理されいな虞があり、別紙第二目録掲記の家屋の所有権者である原告にとつて、その所有権行使の障碍となることは明らかであるが、その敷地所有者である被告に対し、別紙第一目録掲記の家屋の滅失登記手続を請求し得るためには、別紙第二目録掲記の建物の所有権にもとづく妨害排除請求権のみにては足らず更に、原告において、その敷地を使用し、建物を建築し得る権限を有することを要するものと解すべきである。
そこで、原告の右敷地に対する賃貸借又は使用貸借権等の権限の有無について判断を進める。
ところで、その点について、原告は、前顕の火災直後、訴外古田直三郎より焼夫した別紙第一目録掲記の建物の跡地約一三坪を賃借し、その跡地に、バラック建家屋を新築した旨主張するのであるが、別紙第一目録掲記の家屋が焼失したのは昭和二一年五月五日であることは、当事者間に争のないところ、訴外古田直三郎はそれより以前、昭和二一年四月八日に死亡していることは、原告の自認しているところであるばかりではなく、右火災直後建築したバラック建家屋は被告の依頼により、訴外谷岡道広外一名が焼け残つた土台、座、木組を、そのままにして立つたままの柱に焼残りの板等を打ちつけて、屋根は、訴外奥田秀雄が他より貰い受けた古トタンで覆つて修復したバラック建家屋で、原告はそのバラック建家屋を更に賃借居住していたことは、前認定の通りであり、原告の右主張の理由のないことは明らかである。
なお、原告は訴外古田ソデの承諾を得て、右バラック建家屋を取壊し、その跡地に別紙第二目録掲記の家屋を新築した旨主張するので、このときに、原被告間にその敷地に関する賃貸借契約が成立したかどうかについて判断するに、証人益田明、同益田うめ、同古田信子、同古田学の各証言を綜合すれば、原告が別紙第二目録掲記の建物を新築するに際し、被告の母訴外古田ソデに対し、牛乳販売業の関係で「保健所の許可を得る必要上、バラック建家屋の表と裏を一尺位出し改造し度い」旨申入れ、訴外古田ソデよりその点の承諾を得るや、俄かに承諾事項に背いて、右バラック建家屋を擅しいままに、取壊し、その跡地に県当局に対する建築申請をすることもなく、別紙第二目録掲記の建物を建築し、新築後も、原告は、右建物に対する固定資産税を納付することもなく経過し今日に及び、その税金は被告によつて納付されていること、右新築家屋について、従前のバラック建家屋の事実上の管理支配をしてきた被告の妹訴外古田信子は、被告のために原告が従来のバラック建家屋を美しく改築してくれたものと思惟し、それまでの家賃七五〇円を別紙第一目録掲記の建物を被告所有の家屋として、右建物完成後は、一、〇〇〇円に増額し、家賃として原告より受領していること、被告には本件敷地を原告に賃貸する意思は全くなく、原告の敷地賃借の申入れに対しても明確に拒絶していることが夫々認められ、地代を支払つている旨の証人益田明の証言部分、および「土地を貸してくれと古田ソデに相談したところ古田ソデはどうぞしなさいと承諾した」旨の証人益田うめの証言部分は措信し難く、また成立に争のない甲第四号証(通帳)の地料なる記載文言は同通帳の金員受領済の記載が訴外古田信子によつて為され、訴外益田うめの手中に同通帳が帰した後に、訴外益田うめによつて挿入記載されたことが証人益田うめの証言によつて明らかであるから、右書証は、到底採証の用に供することはできず、他に右認定の妨げとなる証拠はない。
してみる別紙第一目録掲記の建物新築に際しても明示は勿論、黙示にせよ敷地賃貸借契約の成立を認むべき何等の証佐なく、結局別紙第二目録掲記の建物の敷地に対する賃借権のあることを前提とする別紙第一目録掲記の建物の滅失登記手続を求める原告の主張はいづれよりするも理由がない。(なお、昭和四五年七月一六日言渡に係る最高裁昭和四四年(オ)第一八三号事件判決は滅失登記は建物の表示に関する登記であるから、不動産登記法第二五条の二に基づき登記官が職権をもつて調査してなすべき登記であるから滅失登記手続をなすべきことを訴求する利益はない旨判示しているが同事件は新建物につき保字登記を完了している場合の判決であり、これと事案を異にし、新建物につき保存登記を完了していない本件については同判例は適切でない。)
(結論)
以上の通りであるから原告の本訴請求中別紙第二目録掲記の建物の所有権が原告にあることの確認を求める原告請求のみを正当として認容し、その余の請求を失当として棄却する……。<目録略>
(緒方康之)